紙をめぐる話|紙の生まれる風景 No.31
大子那須楮(だいごなすこうぞ)
楮蒸し
2023.10.18
初出:PAPER'S No.66 2023 秋号
2023.10.18
初出:PAPER'S No.66 2023 秋号
凍てつくような寒さのなかで、
みな黙々と働いていた。
関東平野の北端に位置する茨城県久慈郡、 大子町。
古くより和紙の原料である楮の栽培をつづけ、
今と未来へ伝えようとする人々が
静かに暮らす山深い町。
ここで育つ楮は高品質の和紙に仕上がるといわれ、
本美濃紙や越前奉書などの
名だたる和紙に使われている。
楮蒸しは、 収穫した(こうぞ)を蒸気で柔らかくする工程。
たっぷりと水を張った地中の大釜に火を焚いて
蒸発させ、その上に楮の束を立てて(こしき)と呼ばれる
巨大な桶をかぶせる。
釜の火を調節しながら一時間半ほど蒸して
甑を上げると、真っ白な蒸気とともに少しだけ
ふんわりとした楮が顔を出し、猪も誘われるという
甘い香りが周囲に広がっていく。
数百年に渡って密やかに繰り返されてきた
紙の生まれる風景。
この伝統がいま、存続の危機に瀕しているという――