2020.06.05
長澤昌彦
詩集『水天のうつろい』特装箱
グラフィックデザイナーの長澤昌彦さんに、ご用途をおしえていただきました。
- 用紙
- い織り スモークホワイト 四六判Y目 100㎏
- 用途
- 貼箱
- 選んだ理由
- 私が装幀をした『水天のうつろい』は、著者の岡田ユアンが自身の子供をうみ出す前後の時間を綴った詩集である。「水天」は仏教における水の神様で、日本では安産・子授けの神様として知られている。詩集の表紙は、永遠の時を持つ宇宙に一筋の水が流れ新たな時間が始まることを示唆している。ファインペーパー い織りの静かな和のテクスチャーが、ブロンズインキで刷られた水面に浮かび上がり、スモークホワイトの偏りのないニュートラルな色調が空間を際立たせる。新しくうみ出された言葉たちを、フランス装に想を得た繊細な造本で包んだ。
特装箱もまた永遠の時を持つ宇宙と考え、全て詩集と同じファインペーパー い織りで包んだ。矩形の右上角を折り曲げたドッグイアのシルエットを持つ箱、中には永遠の宇宙を折り込んだ時間、その時代の母子の時間が収められている。私たちはこの箱を「時のドッグイア」と呼んだ。フタには金箔の星が一つ輝き、フタを開けると同じ位置に変わらず存在する星が、流れる水面にも映り込む。詩集を取り出したハコの底面にも、同じ位置に星が存在している。この星はNISSHAさんのインクジェット出力で、詩集表紙のオフセット特色印刷の刷り色に合わせてもらった。ドッグイアの形状は、収めた詩集を左側に固定させ、背表紙側の空間から詩集を取り出すことを自然に促す。ハコを底上げすることで詩集の表面はハコの高さと美しく揃い、またハコの重量も増して安定感が生まれた。箱を置いたまま繊細な詩集を取り出すことのできるアフォーダンスが存在している。(長澤昌彦さん)
- デザイン
- 長澤昌彦
- 印刷加工
- インクジェット出力 NISSHA株式会社
貼箱 株式会社 泰清紙器製作所
- 書籍情報
- 『水天のうつろい』
2017年11月21日発行
著者:岡田ユアン
装幀:長澤昌彦
発行:株式会社らんか社
編集:一色真理(モノクローム・プロジェクト)
- 関連記事
- あの紙、この紙 『水天のうつろい』